クルーグマン『格差はつくられた』
ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンの『格差はつくられた』を読みました。
クルーグマンは、オバマ氏率いる民主党寄りの論客で、この本を読んでオバマ支持になった人も多いといいます。
本は経済学書ではなく、社会政策の提言書です。レーガン以来、いや、1930年代以来の歴史をひもときながら共和党の「保守ムーブメント」を批判しています。
1929年の大恐慌以降、ニューディール政策などと戦時の経済統制で、民主党はそれまでの所得格差を小さくし、庶民は豊かになった。60年代の公民権運動で差別もなくなると、白人の黒人への敵意や新しい文化への不安も生まれた。共和党のなかの「保守ムーブメント」はそれを利用して支持者を増やした。レーガンは「黒人は福祉にただ乗りしてる」というイメージをあおって福祉を削減した。アメリカは日本と違い、公的医療保険がない。貧しい者はよい医療が受けられず、民間の医療保険も高額である。また、共和党は労働運動を弾圧し、高額所得者の税率を下げて格差を再び拡大した。こうして共和党には業界団体から献金が集まった。共和党にすり寄っていれば仕事がまわってくるので、共和党よりの論客やシンクタンクがいくつも生まれた。ウォールストリートジャーナルやワシントン・ポストやFOXテレビは共和党よりである。ブッシュ政権下はヘッジファンドの経営者に有利な税制改革を重ねた。低所得者の投票率が低いこともこの横暴を許す結果となった。
ざっとこのような内容です。本書が示す民主党が取組むべき課題は、国民医療保険制度の創設と高額所得者への適性な課税だけです。シンプルすぎて肩透かしな気がしました。
あと、諸外国との比較統計がよく出てきますが、諸外国とは欧州のことのみ。世界第二位の経済大国日本にはほとんど触れていません。
それで、私はある外資系金融機関で働くアメリカ人の話を思い出しました。「アメリカ人は投資に熱心で外国にも投資(ポートフォリオ)を分散させるけど、欧米が8パーセントぐらいだとしたら日本は2パーセント以下、アメリカにとって日本の比重はないに等しいくらい軽い」と言ってました。その言葉をこの本から実感しました。
日本のテレビニュースではアメリカの政府関係者が「日本はアメリカの一番大切なパートナー」などと言いますが、あれは日本のテレビの前だからのお世辞、あるいは日本担当者だからこその弁なのかもしれません。
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